聖跡のご紹介
昭憲皇太后 絵画と聖蹟「第30回 初雁(はつかり)の御歌(みうた)」
明治11年(1878)8月30日、明治天皇は北陸・東海道巡幸に出発されました。11月9日に東京に還幸するまで、70日を越える長期の行程です。
9月26日、悪天候のなか、ようやくこの日の行在所(あんざいしょ)である糸魚川(いといがわ)の池原邸に天皇が到着されたのは、夕闇迫る5時半頃のことでした。
行在所には、思いもかけぬものが届けられていました。それは、東京の赤坂仮皇居で詠まれた皇后(昭憲皇太后)の御歌でした。
はつかりをまつとはなしにこの秋は
越路(こしぢ)のそらのながめられつつ
天皇のご到着を見計らったかのように、巡幸中の天皇をお偲びになる皇后の御歌が届けられていたのです。
聖徳記念絵画館壁画「初雁の御歌」は、越後路(えちごじ)を巡幸中の天皇をお偲びしつつ、皇后が赤坂仮皇居の庭を散策される光景を描いたものです。
この時期、北の大陸から日本に向け、越冬に備えた雁が群れ飛んで来ます。東京でも、空を飛ぶ雁の姿を見ることができるようになります。例年のことですから、皇后にとってとりわけ雁が待たれるというわけではなかったでしょうが、この秋については思いなしか越後路の空の方向が気になられたのです。天皇の御身(おんみ)を案じられる皇后の優しいお心遣いが偲ばれます。
*聖蹟に行ってみませんか*
〔水前(すいぜん)神社〕 新潟県糸魚川市
糸魚川行在所の建物は、巡幸の直後に近くの水前神社の社殿として移築され、今も保存されている。
■JR「姫川」駅より徒歩15分
聖徳記念絵画館壁画「初雁の御歌」(鏑木清方(かぶらききよかた)画)
明治11年(1878)9月26日
赤坂仮皇居(東京)
中央:皇后(昭憲皇太后)・右:高倉壽子(かずこ)
水前神社